駅直結、スムーズかつエレガントなエントランス
日本オラクル株式会社の本社は、南青山にあります。
地下鉄の改札を出るとB&Bのショウルーム。高級家具の中でくつろぐ人の姿が“青山”を醸し出しています。それを横目に2階への吹き抜けをエスカレーターで移動します。するとシックなロビー空間に。いつの間にかこのオラクル青山センターのエントランスを通過していたんですね。街との馴染み方が自然すぎて全く気付きませんでした。
このエスカレーター移動中、案内していただいているオラクル社の担当の方が
「僕毎朝このエスカレーターで吐きそうになるんです」と。??
高級すぎて?移動で酔うから?などと考えながら内部へ足を進めました。
素晴らしすぎるオフィス「オラクル・デジタル・ハブ」
いよいよ“空中の茶室”と期待していると、「実は昨年『オラクル・デジタル・ハブ』として3フロアをリニューアルしたんです。」とのことで、まずはオフィスを紹介していただくことに。
受付で入館証を受け取り19階へ。エレベータースペースを抜けて目に入ってきたのは巨大な侍の後ろ姿。縦格子のルーバーに、提灯風のペンダントライト、瓦調のタイル、と本当にオフィス?と違和感を覚えるほど思いきり和テイストの空間がお出迎えしてくれたのでした。
大型モニタに映し出された“ジゴワット様”のウェルカムサイネージが嬉しい演出です。


細部まで徹底された和空間


案内していただいた方の説明によると、社長の好みもあるようなのですが、スタッフの方が自在に展開できる数寄屋造の建築様式を取り入れているとのこと。個室のスライドドアに障子の格子が反映されていたり、小上がりの段差には間接照明や玉砂利が敷き詰められていたり、と妥協のないこだわりよう。
「神は細部に宿る」とは建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉ですが、その細部への徹底ぶりが空間へ程よい緊張感を生み、それが各社員の働いている姿に投影されているかのようでした。
机に向かう姿、話す言葉、立ち居振る舞い、どれも無駄がなく侍に見えてきます。迎えられているこちらが姿勢を正したくなるほどです。みなさんお仕事中にも関わらず、こちらの緊張を解くかのように「いらっしゃいませ」「こんにちは」と声をかけてくれたのも印象的でした。
個人のデスクが昇降式であったり、縁側や床の間を彷彿させるようなオープンスぺースがあったりと、長時間の仕事の疲れや閉塞的になりがちな打ち合わせの鬱々とした気分を軽減してくれそうな工夫がたくさん見受けられました。


そして全面ガラス張りの窓から見える景色も圧巻です。秩父宮ラグビー場、神宮球場が丸見えです!チケット買わずとも見られるがな!

もう衝撃の連続で、この段階ですでに感嘆がとまらない状態だったのですが、案内されるまま21階へ。
こちらは壁に錦鯉。床には枯山水。トドメをさされました。

また、壁に大きなホワイトボードがあるのを発見。各フロアの社員のキャラクターを紹介するスペースらしく手書きのイラストやメッセージでびっしり埋まっていました。チームワークの良さ、それを大切にしようとする社風が感じられた光景でした。
快適でおしゃれなカフェ
再びフロア移動し社員食堂(カフェ)へ。こちらは食事以外にもワーキングスペースやセミナーを開催する場として活用されているそうです。
メニューを見ると日替わりで5品目の献立表が。朝には朝食用のパンも並ぶそう。ソファや席の種類も豊富。「朝、このビルに入ったら帰るまで一歩も外に出る必要がない」と担当の方がおっしゃっておられた意味がわかりました。いやもうなんなら住みたいよね、と思わずつぶやくわたしたちでした。
格式の高い洗練された茶室「聚想菴」
オフィスの案内だけですっかり虜になり心を奪われていましたが、ついに最上階の茶室へ。
土壁のアプローチには西日が差し込み、高級料亭のような佇まいが溢れております。この都心でこれだけの自然光が取り込めるのはよほど遮るものが周囲にない(太陽に近い)証でしょう。

石畳の続く入り口から玄関をくぐると苔の庭と石灯籠。
京都や奈良の庭園では借景として自然の山や滝を景観に取り入れられますが、ここは東京都港区青山。窓から見渡す先には神宮の森、東京都庁、新国立競技場、振り返れば六本木ヒルズ、東京タワー。空気が澄んでいる時は富士山も見えるそうです。
夏の神宮外苑花火大会では、花火を目線の高さで楽しむことができるとのことですが、その花火大会の音の臨場感を楽しむためだけに窓に開閉できる仕掛けを作られた、という事実に言葉を失いました。



「聚想菴」という茶室は4畳半の小間と16畳に掘りごたつ式のテーブルを設えた広間席で構成されていました。
また茶室へ続く露地の天井には鉛箔を市松模様に貼り合わせてあります。
茶室の天井、柱のひとつひとつ、すべてにこだわりを持って仕上げられており、もはやため息しか出ません。
施工は京都の由緒ある宮大工だそう。選りすぐって集められた材木の数々と、細部にわたる丁寧な仕上がりは、大変洗練された、都会にあるとは思えないほど静寂で心地よい空間でした。


その後、都会の低層階では目にすることのない夕暮れを愛でながらオラクルオリジナルのどら焼きと抹茶に舌鼓を打ったのでした。


見学を終えて
真摯に向き合う相互関係
エントランスのエスカレーターに乗り帰路につく際、行きがけに聞いた「吐きそうになります」の意味がなんとなく理解できた気がしました。
「最高の仕事を成すためには最高の場でなければならない」という企業の想いに応えるように、自分を奮い立たせ、日々向き合う仕事の品質は一寸の隙も見せないような努力をされているのではないでしょうか。そのモチベーションを引き出し最大限のパフォーマンスを発揮できるように作られた空間だと感じました。
最上階の絶景はそれを成し遂げた方へのご褒美なのかもしれません。
2020年。年のはじめに令和の侍を見た気がしました。