新宿駅直結の大型商業施設「NEWoMan新宿」
時を遡ること2016年。新宿駅新南エリアに駅直結の商業施設「NEWoMan新宿」がオープンしました。駅直結だし、気になるショップも多数展開されていたので、オープンして間も無く買物がてら視察に行きました。
入店早々、開けた空間と多様な植物と野鳥の鳴き声の環境音に視覚、聴覚のどちらからも一気に世界観に惹き込まれたのですが、どんな店舗が入っているか物色しているうちにある疑問を感じ始めたのです。
「まだどの店舗にも入っていないのに楽しい」「この充実感は何?」
通常このような商業施設ですと、通行しながら店を選ぶ<意識OFF状態>と、購入を検討する<意識ON状態>を繰り返しながら店舗を廻っている感覚があるのですが、入店してからずっと<意識ON状態>なのです。 ふと天井の板貼りの木材を見てみると通常のフローリング材は床、壁、天井どちらにおいても縦か横方向に貼っていくですが、この天井は斜めに貼られていました。その効果で目線の流れが縦横ではないダイナミックな動きに誘導されているのでした 。

そこから一気に隣の素材、またその隣の素材と視線を移していくと、一つの通路にふんだんに異なる素材が使用されているのがわかりました。そしてその切り返しの個所が天井と壁の境界といった物理的なポイントではなく、床、壁、天井それぞれの面でも複数の素材の組み合わせが行われていました。
まるで絵画のコラージュ作品を観せられているようです。入店時から感じている充実感はこの影響か!と気づかされました。

それだけではありません。どうやら各ショップのファサード部分の床面、天井面素材も共有通路側に侵食する個所があったり、切り返しのポイントがズレていたりと店舗のスペースと通路の境界も曖昧になっているのです。
ここでそれまでの疑問が確信に近づきました。
「きっと各素材を意図的に組み合わせているのでは!?」

<ON>と<OFF>の差
「店舗自体をより際立たせるため」や、「“通路”という認識をはっきりさせるため。」など理由は様々考えられますが、通常の共有部は単一的です。設計する側もここは共有部だからこの仕様のリピートで、と割り切ります。しかしここはその共有部が綿密に設計されております。店舗内の設計密度と同等の設計が施されているのです。その効果により来店者に意識の<ON><OFF>の差が生まれず、共有部である通路においてもずっと<ON>状態でいられるのです。その徹底ぶりはトイレやエレベーターの待合スペースにまで展開されていました。

その後も訪れる度に気づかされる素材の魅力
もともと素材も買い物も大好きな自分はすっかり「NEWoMan新宿」の虜になってしまいました。その後も訪れる度に様々な発見があるのです。
“天井のスケルトン部に強調するかのように間接照明をアッパーで照らしているのは立体感が出るようにではないだろうか?”とか、“フロアサインをミラー素材にしているのは、これだけ複数の素材の中で埋もれず、人の視線とともに常に移り変わる効果をアイキャッチとして使用しているのではないか?”など気づかされたことがたくさんあります。各店舗においても素材の持つ効果が散りばめられており、現在でも訪れるのが楽しいです。

多種多様な素材から生まれるシームレス空間
僕は「NEWoMan新宿」に行く時の意識は「複数ある店舗のどれかに行く」ではなく「NEWoMan新宿に行く」なのです。「NEWoMan新宿」というひとつの店舗といえるでしょう。そう思わせられるのは空間をシームレスに繋いでいる素材の妙があるからではないでしょうか?

使い方次第で空間にここまで影響を与えることを教えてくれた“素材”。 まだまだ未知の可能性を感じ、新たなアイデアが生まれる予感がしてワクワクします。